松戸市立小金小学校創立130周年記念事業実行委員会「歴史読本こがね」編集委員会編
『歴史読本こがね』 『歴史読本こがね』
B5判2色刷(一部カラー)164ぺ 2002.11.30発行 
1650円(本体1500円)

 ある地方の歴史が,日本の歴史とどう関わってきたかがわかる画期的な読み物。執筆者の一人,重弘忠晴さんは『日本の戦争の歴史』『靖国神社−そこに祀られている人びと(いずれも板倉聖宣と共著,仮説社刊)の著者で,原子論的に歴史を見直す〈社会の科学〉の研究者(最新刊は『仮説実験授業の提唱』)。小学校の記念誌として製作されましたが,ひろく皆さんにおすすめしたい一冊。
 制作:街屋(平野孝典) 制作協力:海猫屋ほか

 内容●はじめに
    原始時代−貝塚と小金古墳群
    古代−下総国葛飾郡
    中世−見えてくる「小金」
    近世−江戸時代の小金
    近代−小金の文明開化と新しい時代の農業
    戦後−農村から住宅地へ


●書評 板倉聖宣講演「構造的に捉える楽しさ」より
「仮説実験授業を地方史に応用すると,こんな本ができる」
(2002.11.30 三重県桑名市民会館にて)
『仮説とともに別冊10 仮説実験授業が明らかにしたこと』(編集発行 竹田美紀子)より引用。

 『歴史読本 こがね』という本があります。この本は仮説実験授業の成果を集大成したような感じの本です。
 仮説実験授業では「こがね」なんか研究していません。しかし,この本の気配りは,ほとんど仮説実験授業そのものです。この本の中には,今まで仮説実験授業で取り上げてなかった数学的手法も入っています。じつは,この本は,ほとんど私が監修しているようなものです。
 例えば,こういうグラフがあります。

人力車のグラフ
 日本の大八車とか,人力車とかの税金は始めは「国税」なのです。人力車には保有税がかかります。今でも自動車を持っていると税金がかかるでしょう。それと同じように人力車にも,荷車にも,始めは国税がかかったのです。それが,だんだんと地方税に変わります。そうすると,たとえば「小金」という地方にある人力車の数は,この1880年ごろからデータがあるのです。しかし,私はこのグラフでは,原点を明治1年からとります。データが1880年から始まるのですから,ふつうは1880年ころからグラフを始めるのがふつうです。そうするとどうなるでしょう。
「小金の人力車は,はじめはたくさんあったけど,どんどん減った」という歴史認識になってしまうのです。ところが,ここでは「人力車がだんだん減っていった」ということを教えたいのではないのです。明らかに人力車はだんだん増えたのです。点線を延ばしていくと明治元年には人力車はなかったのです。
 だから,こういうグラフを作るときには,その目的意識に合わせて,データだけでグラフを作ってはいけないのです。データはないけれど,確実に明治元年にはゼロなのです。でも,明治三年からは国税を取っていますから,国全体,あるいは東京府全体のデータはあるのです。そして,国税がなくなってしまうと小金村のデータが出てくるのです。
 そういうときに,「国税のデータを影の存在としてグラフを書いて,そして小金村のデータを書き入れる」。単位もだいたい同じように合わせてグラフを書くと,「あー,ここから,ここまで増えたのだ」と,データはないけれどわかるのです。(中略)

「何のためにグラフを書くのだ」ということがあるのですが,このグラフでは,人力車が減っていることを示すためではなく,「小金の町にも人力車があったのだ。それは明治以後増えたのだ」ということを伝えたいのですね。「人力車が出てきた」ということは,明治になって人力車が発明されたことにあります。だから「そういう問題意識にあわせてグラフを作る」のです。
 重弘忠晴さんが,この本の原稿を持ってきたのですが,とっても見づらい原稿でした(笑い)。感動的に見づらい,読む気がしない。でも,できあがったこの本はすごく読みやすくなっています。
 こんな本ができたのは,ほとんど仮説実験授業研究会の成果です。こんなきれいな本にしたのは街屋の平野孝典さんです。平野さんはこういう本を急速に作る能力を「サイエンスシアターの原稿ができたから,いついつまでに作れ!」と言われたりして養ってしまったのです(笑い)。こういう「本をきれいに作る」というのが好きで,いつまでも生活は奥さんに食わせてもらっていて(笑い),道楽で,「たのしい編集をしよう」「きれいな本を作ろう」「見やすい本を作ろう」としています。「こういうグラフは,こう書くと楽しいよ」と私が言うと,採算を度外視でやってくれるのです。
 それから,イラストは藤森知子さんです。そして,つい最近まで仮説社の社員だった田中武彦さん(現在,海猫屋)がまた応援をしている。これは小金小学校の本なのだけど,本当に仮説実験授業研究会の本みたいで,あきれるくらい仮説実験授業の成果が入っています。

「えー,こんなことが入っているぞ」とびっくりしたのですが,『白菜のなぞ』(仮説社刊)という私の本がありますが,白菜の話などここに出てくる必然性はないのですが,ちゃんと出てきています。小金町で〈京菜〉を作ろうと努力した人の話があって,ちょうど『白菜のなぞ』で紹介した,白菜で苦心した話と同じような話が出てきます。
 それから,日清・日露の戦争の戦死者の話(もともと『日本の戦争の歴史』(仮説社刊))も,「小金町では何人出征したか? 何人戦死したでしょうか? 何人くらいが病死したでしょう?」と出てきます。
 
 それで,「仮説実験授業を地方史に応用すると,こんな本ができちゃうんだ」と思いました。

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